| 相撲を引退し、突然の立ち技格闘技世界への転進。しかし、2m、200kgの肉体をもってしても戦績は未だ勝ち星なし。評価を変えるためには、もと横綱・暁は勝負に出るしかなかった。
格闘技の世界に身を置くものなら必ず耳にする秘密闘技場。詳細は謎だが数々の有名挌闘家がそこでの戦いを経てさらに成長していると聞く。また、無名の選手がそこでの戦いで一躍ビッグイベントに抜てきされる事もあるらしい。 次のマッチメイクは待てない。すぐにでも秘密闘技場で強さを見せ、認めさせなければ…
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| 暁はあらゆる手段を使い、秘密闘技場での試合にこぎつけた。しかし詳しくは知らされない。
ルールは暁の所属する団体のルール。しかし、ラウンドの制限もレフリーもいない。どちらかが完全な勝利をあげるまで続けられる… 暁は閑散とした、何処とも知れぬ会場に設置されたリングに立った。観客はゼロ。暁の関係者すら連れて来れなかった。しかし、うすぐらいその会場の壁面には無数のカメラが並ぶ。観客はカメラの向こうに無数にいる… 相手も知らされていない。ただ同じルールで闘う… たとえ世界のどんなトップアスリートがでてこようが暁は驚かない覚悟だったが…驚いた。 |
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| 正面から出て来たのはとてつもなく太く巨大な筋肉の鎧に覆われた、女性だった。顔つきは男っぽい、その筋肉は冗談のように大きい、背も2m以上ある女…
リングを囲うロープをゆうゆうまたぎ、相手は入って来た… |
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| ナオミの機嫌はよかった。
秘密闘技場での闘士でもあるナオミに回って来た試合の相手は暁。力士としてはともかく、身体を改造する事もせずに立ち技格闘技に身を転じた暁を、ナオミは嫌っていた。あの体型で挑む姿勢が嫌いだったのだ。 腹が立っていた所に暁との試合。 公然と粛正できる。と、機嫌がよくなった… |
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| 一言も言葉をかわさないまま、どこかに設置されたスピーカーからゴングがなった。
構える暁に対し、悠然と立つナオミ。暁は自分が見上げなければならない相手は初めてだ。ナオミの身体は全て筋肉に覆われているばかりか、そのあまりの筋肉の太さはばかばかしいほどだ。 恐怖を覚えつつも暁は突進した…しかし、ナオミは暁より大きい。普通の相手なら暁が近づいただけで下がるだろうが、ナオミには通じない。 暁は自分の距離からハンマーブローをくり出すが…ボディへのパンチは鍛え上げられた腹筋に防がれ、サイドからのパンチはその太すぎる腕の筋肉で簡単に弾かれ、顔へのパンチはその異常に盛り上がった大胸筋に阻まれた。 暁は絶望した、この怪物には、正になにも通じない…それどころか…あの剛腕でくり出す攻撃はいったいどんなものになるのか…背筋が寒くなった。 ナオミはその暁の攻撃をあしらうと、反撃…いや、試合を終わらせにかかった。 |
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| ナオミが軽く振ったようにしか見えなかったパンチは200kgの暁をガードごと下がらせた。パンチを受けた暁の腕はしびれて感覚がない。
暁を超える巨体だが、ナオミの身体の使い方は利にかなっており無駄もない。加えてその筋肉は伊達ではない。スピードと圧倒的パワーののった剛腕パンチは、暁でなければ身体ごとリング端まで飛ばされていただろう。 しかし、このパンチもナオミは手加減したものだった。暁を確実にコーナーに追い込むために。全力で打ち込んだら暁と言えどガードごと粉砕され吹き飛ばされていただろう。 恐ろしいパンチからガードすることしかできない暁はナオミのもくろみ通りコーナーにつまってしまった… ここではじめてナオミが口を開いた。 「シェイプアップして出直してきな」 それを皮切りに、ナオミの回転の良いパンチが暁を襲った。 |
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| ドガッ
ドスッ バグッ 的確に暁の身体にナオミのパンチがめり込む。 確実にそのパンチは一発で暁をKOできるすることができる。が、ナオミは暁をダウンさせない。 暁の体重がかかった方向から重いパンチを浴びせ、暁をコーナーに戻す。 コーナーに押し付けられ、下からのパンチで200kgの身体すらマットから浮いてしまっている。次々とナオミのパンチが威力を増して暁の身体に突き刺さった。 暁はもう意識はほとんどない。顔面を殴られるたびに歯や顎が折れ、身体を殴られるたびにどこかが砕け腫れ上がり骨がへし折れるのがわかった。 |
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| 最後のナオミのパンチは、一瞬暁の腹に肘まで突き刺さり、暁の意識を暗黒へ落とした。
やっと倒れる事を許された暁の身体を軽々とリング中央に放り投げるとナオミはそのままリングを降りた。 「試合じゃなかったらそのまま殴り潰してやるのに」ちょっとつまらなそうにそう言って… 虫の息でリング中央で転がる暁は、これを機に格闘技を引退する事になる… この見るも無惨な試合の様子は秘密闘技場の観客に好評だったとか… |
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